裁判離婚における離婚理由
「離婚が成立するまでの流れ」では裁判離婚は離婚全体の約1%であると紹介しました。
もっとも協議も調停もまとまらなければ裁判離婚まで発展するケースも十分にあり得ます。裁判離婚になった場合、離婚理由がなければ離婚することができません。このページでは離婚理由について紹介します。
裁判離婚が認められるための理由には「5つ」あります。
その5つの理由は民法という法律の770条に書かれています。それぞれ見ていきましょう。
1.配偶者に不貞な行為があったとき
これは最も分かりやすい離婚理由ですね。結婚している人が自らの意思で配偶者以外の人と性的な関係をもつことです。浮気や風俗通いなどが具体例です。この場合、離婚請求とともに浮気相手や配偶者に対して不貞慰謝料として損害賠償請求をしていくのが通常です。
2.配偶者から悪意で遺棄されたとき
これは少し難しいですが、言い換えると、配偶者が結婚の義務を意図的に怠ったとき。ということです。結婚の義務とは次の3つのことです。
1、同居義務…夫婦が一緒に住む義務。
2、扶助義務…金銭的にお互いが同レベルの生活を送れるようにする義務。生活費を相互に負担することと考えていただければよいです。
3、協力義務…夫婦が互いに協力し、その生活を維持する義務。
上記義務に「悪意」つまり意図的に違反した場合に「悪意で遺棄」したことになります。
1の具体例としては、配偶者の同意を得ないで勝手に別居している。配偶者を虐待して追い出す。などが考えられます。
2の具体例としては、生活費を渡さない。渡しているとしても最低限度に足りていない。働ける能力があるのに働かない。生活費を趣味やギャンブルにつぎ込む。などが考えられます。主にお金の問題ですね。
3の具体例としては、家事・育児の放棄などが考えられるでしょう。
3.配偶者の生死が3年以上明らかでないとき。
失踪や家出をして配偶者と連絡がつかず、3年以上生死が分らない場合です。現代社会では連絡を取ろうと思えば色々な手段がありますし、この要件は生死が不明でなければ認められないのでなかなか難しいです。失踪宣告という手段を採ることも考えられますが、現実的ではないでしょう。
4.配偶者が重い精神病にかかり回復の見込みがないとき
重い精神病とは例えば、統合失調症、認知症、双極性障害、重度の身体障害などが考えられます。他方、アルコール中毒、薬物中毒、ノイローゼ等はこれには含まれず、次の「その他婚姻を継続しがたい重大な理由があるとき」に含まれます。
この要件は一見すると配偶者が重い精神病にかかれば要件を満たすようにも読めますが、実際は相当厳しい判断がなされます。例えば、治療が長期にわたっていること、長期間献身的に看病をしてきた、離婚した場合、重い精神病に罹患した一方配偶者の生活の見通しが立つことなどです。
お互い縁あって結婚しているのですから、単に重い精神病にかかっただけでは離婚できないというのは納得しやすいことかと思います。
5.その他婚姻を継続しがたい重大な理由があるとき
夫婦関係は多種多様で、1から4までの離婚理由だけでは裁判離婚で扱える問題は非常に限定的です。そこで多種多様な離婚原因に対応すべく、この離婚理由が認められています。
別居するその前に
離婚を決意してから、離婚の準備期間として別居をされる方が少なくありません。そして、別居されてから弁護士事務所へ相談に来られる方が多いのも事実です。一度別居してしまうと、別居前であれば容易に把握できた有利な事情も把握し難くなります。ここでは、別居するその前に把握しておきたいことをいくつか紹介します。
「離婚に向けて話し合うべきお金の問題のページ」では財産分与について紹介しました。財産分与をするにあたっては、夫婦共有財産の把握が必要になります。これは別居の前後で把握の難易度が異なりますので、別居前に把握するように努めましょう。弊所に相談して下さる女性の方は、夫に家計管理を任せていたので夫の財産を把握していない。という方が多いです。また実際そういった女性が多いのも事実でしょう。そのような方は特に別居前に夫婦共有財産を洗い出すのがよいです。
では順にどのように把握するか見てみましょう。
相手方の収入
これは相手方がサラリーマンの場合は源泉徴収票、自営業者の場合は確定申告書の控えなどから把握できますので、コピーをとっておくとよいでしょう。携帯電話のカメラ等で撮影する方法でも問題ありません。
預貯金
これは、家族全員分のものを把握しておきましょう。可能であれば見開きのページをコピーしておくとよいでしょう。特に給与振込口座を把握しておくと、離婚後、養育費の不払いがあった際に差押え財産として有力な候補になるでしょう。
不動産
持ち家の場合、売却価格が残ローンを上回れば、財産分与の対象になります。そのため、不動産を購入した際の売買契約書、銀行で住宅ローンを組んだ際の金銭消費貸借契約書、返済予定表があればコピーしておきましょう。また登記識別情報通知(いわゆる権利証)もコピーしておくのがよいですが、名義が相手方の場合は無断で登記識別情報通知に付されているシールを剥がすのは控えたほうがよいです。シールがついたままでよいのでコピーしておきましょう。さらに、余力があればいくつかの不動産会社に査定してもらい最高価格を把握するようにしましょう。
保険関係
保険証書をコピーしましょう。その際、保険会社、保険の種類、契約者、受取人、保険料、満期、解約返戻金の有無などを併せて調べておきましょう。
有価証券
株式などの有価証券も分与の対象となります。証書などをコピーして銘柄、口数、購入価格、時価などを確認しましょう。もっとも、最近はネット証券会社の普及により証書がない場合も多いです。このような場合は日常の生活の中でそれとなく相手に聞き出したり、相手の話を注意深く聞くようにしてみてください。得てして株式取引などをする方は配偶者にその内容を話したがるものです。普段の会話の中にヒントが隠れているはずです。
借金(ローン)
借金(ローン)は財産分与の際、プラスの財産から借金を引いた分が分与の対象になることから、これも正確に把握しておく必要があります。毎月金融機関から送られてくる明細表などをコピーして残高を把握するようにしましょう。
不貞を証明する証拠
ここでは話題を変えて、夫婦共有財産同様、別居後は収集しにくい不貞を証明する証拠について少しだけ紹介します。詳細はまたの機会に紹介します。
SNSなど通話アプリ
法的に勝手に相手方の携帯の中身を覗き見てその内容を証言したり、写真を撮ったりすることは証拠として機能しない場合があると言われますが、悪質性が弱い場合は十分証拠となり得ます。気が引けるかもしれませんが、適宜の方法で証拠は保全しておきましょう。
写真フォルダ内の写真
これも上記と同様の問題が生じ得ますが、不貞を疑わせるような写真があれば適宜の方法で証拠保全しましょう。
まとめ
このページでは、夫婦共有財産の把握と不貞を証明する証拠については別居前に収集しましょうと述べてきました。これらはいずれも別居してしまうと相手が任意に開示してくれる可能性は低く、把握せずに別居を始めてしまうと、財産を隠されたり、証拠を隠滅され、本来請求できるはずの額の財産分与ができなかったり、不貞慰謝料の請求ができない事態に陥るおそれがあります。
一刻も早く別居してしまいたい気持ちも十分に分かりますが、まずは冷静になり、必要な情報を収集するようにしましょう。詳細を知りたいという方はお気軽に当事務所へお問合せ下さい。
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